連載きずな

 産経新聞西日本朝刊で連載してきた「きずな―三恵園日記」は、令和元年6月から「きずなNEWS」として模様替えし、新たにスタートします。

 事業団は、産経新聞社の社会貢献を目指して昭和19(1944)年に設立されました。社会福祉法人として、支援を必要とする人々のために幅広い活動をする「公益事業」と、障害のある人々を直接支援する「社会福祉事業」を2本柱としています。

 平成28(2016)年4月の改正社会福祉法の施行で社会福祉法人には地域における公益活動が義務付けられ、それまでより一層「地域福祉」「地域共生」を強力に推し進めるよう求められました。

 これを受け、きずなNEWSでは事業団が運営する施設の日常の表情を報告するだけでなく、施設と地域との交流、事業団の社会公益活動についても紹介していきます。

 平成22年6月からスタートした「きずな―三恵園日記」は23年10月、それまでの約1年半にわたる連載記事をまとめた「きずな-三恵園日記」として刊行され、26年1月には過去の記事から118の物語をテーマごとに編集した「障害者支援の1200日 ありがとう」として刊行されました。どちらも福祉現場の”ちょっといい話”が満載です。ご希望の方は事業団本部までお問い合わせください。

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【きずな「三恵園日記」】古布が導いた「再会」

2013年01月16日

 「あっ、お母さんや」。能勢町で地域の物産店「丹州路」を営む福畑秀子さんは、障害者施設「なごみ苑」(同町)から納品されたメガネケースをひと目見て胸がいっぱいになった。ケースに使われていた布が母、中島トクさんの遺品の着物だったのだ。

なごみ苑は資源ゴミの回収など「エコ活動」に力を入れていて、その一つが古布でマットや小物などをつくること。平成21年の町民祭では、不用になった着物地を洋服に仕立て直し、利用者らがファッションショーを開催、活動をアピールした。

秀子さんはこのファッションショーを見て着物の寄付を思い立った。トクさんは6年前、87歳で亡くなったが、着物が好きで生前はいつも着物を着ていた。だから着物をなかなか捨てられなかったが、「人の役に立つなら」と決心した。

寄付された着物は利用者がほどき、1枚の布にする。何に活用するかは、利用者やボランティアなど製作に関わる人で相談して決める。トクさんの着物はメガネケースにすることになり、牛乳パックを利用してかたどり、裁断、組み立て、ボタン付けなどの工程を重ね、作り上げた。

丹州路は、6年前からなごみ苑の自主商品を販売していて、今回もいつも通りメガネケースを納品。その中にたまたまトクさんの着物を活用したものが交じっていたのだ。

「見たとたん、母親に出会ったような気がしました」と秀子さん。着物は、秀子さんの小学校の授業参観日にトクさんが着てきたもの。凛(りん)としたその時の姿がちょっと自慢だった。トクさんは畑仕事をこなしながら子供5人を育てた。厳しさの中に限りない優しさがある"ニッポンのお母さん"。子供たちはみんなトクさんの着物姿が大好きだった。

秀子さんが姉や兄にケースを見せると「こんな形で母の思い出に会えるなんて...」と感激、姉兄もメガネケース3個を追加注文した。

「おうちに戻ったんやね」と、作った利用者たち。「もの」には人の思いが宿り、目に見えない力を放つ。「リサイクルという活動のもう一つの意義を実感した」。職員たちはそうかみしめている

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