連載きずな

 産経新聞西日本朝刊で連載してきた「きずな―三恵園日記」は、令和元年6月から「きずなNEWS」として模様替えし、新たにスタートします。

 事業団は、産経新聞社の社会貢献を目指して昭和19(1944)年に設立されました。社会福祉法人として、支援を必要とする人々のために幅広い活動をする「公益事業」と、障害のある人々を直接支援する「社会福祉事業」を2本柱としています。

 平成28(2016)年4月の改正社会福祉法の施行で社会福祉法人には地域における公益活動が義務付けられ、それまでより一層「地域福祉」「地域共生」を強力に推し進めるよう求められました。

 これを受け、きずなNEWSでは事業団が運営する施設の日常の表情を報告するだけでなく、施設と地域との交流、事業団の社会公益活動についても紹介していきます。

 平成22年6月からスタートした「きずな―三恵園日記」は23年10月、それまでの約1年半にわたる連載記事をまとめた「きずな-三恵園日記」として刊行され、26年1月には過去の記事から118の物語をテーマごとに編集した「障害者支援の1200日 ありがとう」として刊行されました。どちらも福祉現場の”ちょっといい話”が満載です。ご希望の方は事業団本部までお問い合わせください。

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【きずな「三恵園」日記】訓練は自立への一歩

2015年05月19日

 「居宅訓練ホームです。異常があります!」
 一昨年秋、ホームを管理する救護三恵園(能勢町)に緊迫した声の電話が入った。ホームに入居したばかりの兵頭恵さん(43)が「見知らぬ子供たちが大勢、家を訪ねてきた」と知らせてきたのだ。担当支援員、吉山由美子さん(57)はすぐに事情を察し、やさしく告げた。
 「それなら心配いりません。『亥(い)の子(こ)』という行事ですよ」
 その日は、町で昔から伝わる豊作を祝う行事の日。夜、子供たちが家々を訪ね歩いて獅子舞を披露し、お礼にご祝儀などをもらうしきたりだ。社会経験の少なかった恵さんが、地域の人々を初めて身近に感じた出来事だった。
■小さな世界から施設へ
 恵さんが施設に来たのは3年前。さまざまな事情で困窮し、家族一緒に暮らせなくなったからだ。
 幼少期から言葉が遅かった。中学校でうまく人間関係を作れず、不登校になって以来、家族だけと関わる生活になった。父親が不在となってからは、母と兄との3人暮らし。小さな世界の中だけで生きてきた。
 入所時は歯磨き、入浴などの生活習慣が身についていなかったが、すぐに生活リズムをつかみ、作業所の内職や掃除もできるようになった。そして一昨年11月から、三恵園が施設近隣に借りた一軒家「居宅訓練ホーム」で自立に向けた訓練を始めた。
 スーパーで計画的に買い物をする、バスに一人で乗る・・・。素直で前向きな性格の恵さんは、社会経験を着実に積み重ね、日に日にできることを増やした。もちろん翌年の「亥の子」では、お菓子をたくさん用意し、子供たちを待ち受けた。
■次のステップへ
 生活に行き詰まり救護施設で保護されても、生活訓練が必要な利用者は多い。定められた訓練期間は最長2年。居宅訓練ホームは自立への通過点にすぎない。
恵さんの訓練も今年11月で終わる。その後は、母親が暮らす別の施設近くで住みたいと希望している。
 救護施設の支援員は、全員で最後の仕事、次のステップへの橋渡しに取りかかる。転居先の福祉事務所やグループホームと関係をつなぎ、恵さんの今後を託すのだ。
吉山さんは「居宅訓練ホームの経験を生かし、前向きに地域で生活されるよう願います」と話した。
(企画推進本部 和田依子)

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