連載きずな
産経新聞西日本朝刊で連載してきた「きずな―三恵園日記」は、令和元年6月から「きずなNEWS」として模様替えし、新たにスタートします。
事業団は、産経新聞社の社会貢献を目指して昭和19(1944)年に設立されました。社会福祉法人として、支援を必要とする人々のために幅広い活動をする「公益事業」と、障害のある人々を直接支援する「社会福祉事業」を2本柱としています。
平成28(2016)年4月の改正社会福祉法の施行で社会福祉法人には地域における公益活動が義務付けられ、それまでより一層「地域福祉」「地域共生」を強力に推し進めるよう求められました。
これを受け、きずなNEWSでは事業団が運営する施設の日常の表情を報告するだけでなく、施設と地域との交流、事業団の社会公益活動についても紹介していきます。
平成22年6月からスタートした「きずな―三恵園日記」は23年10月、それまでの約1年半にわたる連載記事をまとめた「きずな-三恵園日記」として刊行され、26年1月には過去の記事から118の物語をテーマごとに編集した「障害者支援の1200日 ありがとう」として刊行されました。どちらも福祉現場の”ちょっといい話”が満載です。ご希望の方は事業団本部までお問い合わせください。
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【きずな「三恵園」日記】「ひーくん」が贈るランドセル
2016年09月27日
ずらりと並ぶ色とりどりのランドセル。来春に向けた販売が夏前から始まっている。東尚史(あずまひさし)さん(29)は入学祝いのランドセルを買いに、めいのゆいちゃん(6)=仮名=の家族と兵庫県伊丹市内のショッピングモールに行った。
「どれがいいんや?」と東さんは優しく尋ねた。試しに背負っては鏡を振り返り、似合うかどうかを確かめるゆいちゃん。濃いピンクのものを選んだ。
■5年前からコツコツと
就労継続支援事業所「ワークスペースさつき」(池田市)の利用者、東さんは、袋詰めなどの内職をして賃金を得ている。姉の長女、ゆいちゃんのことがかわいくて仕方がなく、会うと友達のようにふざけあって遊んだ。5年前、家族の勧めでランドセルのプレゼントを計画。毎月の賃金からコツコツ千円ずつ貯金し、仕事の張り合いにもなった。
ゆいちゃんは東さんを「ひーくん」と呼んで慕っている。あるとき、ゆいちゃんが東さんのボランティアについてきた。実は東さんは、ご近所のアルミ缶を回収し、福祉施設に寄付する活動を長年続けている。雨の日も風の日も、20軒以上の家を週に1度訪問してきた。
東さんがいつものようにインターホンを押し、無言で待っていると、ゆいちゃんからダメ出しが。
「ほら、ひーくん。黙ってないで『こんにちは』って言わなくっちゃ!」
ゆいちゃんはいつの間にか、ちょっぴりお姉さんになっていた。
■誰かの喜びが自信に
東さんの活動は近所で評判だ。アルミ缶と「いつもありがとう」という温かい言葉を玄関で受け取り、東さんは地域としっかりつながっている。「誰かが喜んでくれること」が自信になっている。
「ランドセル、もう届いたかな」
注文品が届くのは来月。今はゆいちゃんの喜ぶ顔を待つ日々だ。 (企画推進本部 和田依子)