連載きずな

 連載「きずな―三恵園日記」は、事業団が運営する施設で日々繰り広げられている日常の表情を中心に報告しています。産経新聞西日本版朝刊で平成22年6月から連載がスタート。

現在は大阪版が毎月奇数火曜日朝刊、他の西日本地域版は随時、主に朝刊に連載中です。

平成23年10月、それまでの約1年半にわたる連載記事をまとめた「きずな-三恵園日記」を刊行。平成26年1月、過去の記事から118の物語をテーマごとに編集した「障害者支援の1200日 ありがとう」を刊行しました。福祉施設の現場で起きる笑い、涙、驚き、喜びなど、「現場」の”ちょっといい話”が満載。ぜひお読みください。

ご希望の方は、書店、インターネット、または事業団本部までお問い合わせください。

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連載きずな

【きずな「三恵園」日記】耳傾け10年、心通い合う

2016年05月17日

 生活介護事業所「こすもす」(池田市)の利用者、文也さん(29)=仮名=は午後のひとときを大好きな雑誌を眺めて過ごす。
 通い始めた10年前は、今のような落ち着きは想像できなかった。
 文也さんを長年診てきた医師は「ずいぶん変わりましたね。まさかこれほど言葉が出るようになるとは」と、驚きの声を上げた。しかし、深水雅士支援員は「文也さんが変わったのではなく、周囲が彼のことを分かるようになっただけ」と振り返る。

■じっくり聞き取ろう
 通所後しばらくは、環境になじめず、たびたびパニックに陥った。何か伝えたいようだったが、言葉は不明瞭(ふめいりょう)。途方に暮れた支援員らは「まずはじっくり聞き取ろう」と決め、全員で文也さんを観察し、情報を共有した。
 ある日、文也さんが「あーしゅー、あーしゅー」と何度も叫ぶのを聞いて、支援員らは話し合った。
「外出行事の前になると落ち着かない。何か伝えたいのでは?」「『ガイシュツ(外出)』って言っているのでは?」
 文也さんは自分が外出できるのか知りたくてたまらず、声を発しているのかもしれないと、支援員らはようやく気持ちを探り当てた。

■「分かってほしい」に寄り添う
 「分かってほしい」という文也さんの心の叫び。それに応えられるまで3年かかった。「分かってほしい」に寄り添うと、文也さんは落ち着きを取り戻し、口に出す言葉が日に日に増えた。
 5年がたつころには、文也さんは壁に掛かったカレンダーを指さし、月の予定を支援員に確認するようになった。スケジュールが分かると、行事を落ち着いて待てるようになり、パニックも減った。
 日々の活動の中で可能性の芽を見つけ、根気よく寄り添う支援。10年はあっという間だった。
                                                 (企画推進本部 和田依子)

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